見ないうちに、知り合いである農家の息子がサイボーグになっていた。今回インプラントしたのはハートビート・パルス・シンセサイズ・スタビライザと書くとかっこいいが、要はペースメーカーであるが、なんと最大R-R間隔は1秒とのことである。この間隔を超えると機械の身体がアクティヴェートして強制的に心拍数維持を図る仕組みになっていることから、テクノロジーの申し子たる農家の息子になったわけだ。
さて、心拍数が60以下にならない身体はどのような不利益を被るか。自らを省みれば、睡魔に身を委ねる際に大きな影響を受けそうだ。このとき嗜む性癖として、モーター・ニューロンを最大限に操りオートノミック・ニューロンへ影響を与えて心拍数を低下させる行為に耽ることを挙げられる。主な操作対象は胸郭の位相変化による副交感神経の賦活化(心拍のパワースペクトルを構成するウェーブレットの上を滑らせるように呼気するというか、なんつーの、いや酔っぱらってないですよ、こう、こういうの)であり、皮下静脈を意識的に弛緩/収縮させる技(体幹の容積を増やす感覚というか、なんつーの、いや酔っぱらってないですよ、こう、こういうの)も併用して心拍を可能な限り低下させつつヒュプノスの両腕に抱かれていくのだ。毎日だいたいR-Rを1.5秒あたりまで延ばしたところで意識を失っているが、サイボーグ化の暁にはこのような生体を操る愉しみを失ってしまうと言える。
加えて、ああそこ寝タバコするな! ニコチンで皮下静脈が収縮して血圧上がるんだよ! と余計なことでストレスを溜める機会も失ってしまうわけだ。これも機械人間の知り得ない愉しみである。